「第1初級操縦課程(着隊)」

「第1初級操縦課程(着隊)」

 昭和61年4月、無事地上準備課程を修了した。これからは、3つのフ ライトコースに分かれ順に飛行訓練を開始する。

我々のコースは「87−C(チャーリー)」と呼び名がつけられ、10名はそ のまま山口県の防府北基地で、他の8名は静岡県の静浜基地で訓練 を受ける。私は、静浜基地での訓練を命ぜられた。約一週間後、制服姿で山陽新幹線に乗り山口県を後にした。

 静岡県のJR藤枝駅には、サングラスをかけ制服を着た小太りのおっ さんが、マイクロバスとともに我々を待っていた。このおっさんが何者かは誰も知らない。自然にそのおっさんに吸い寄せられる様に近づき、た だ、「オッス!」と敬礼をし、バスに乗り込んだ。今から思うと、お互い何 も確認もせず、よくバスに乗せ、また、我々もよく乗ったなと疑問に思う。何とも異様な光景であったことであろう。制服での移動ならではの 「技」であったのだ。

移動中おっさんは無言であった。我々の緊張し話ができなかった。バス が基地に到着し、おっさんから初めて指示が出た。「部屋に荷物を置き、 体操服に着替えグランド集合!」。「ハイ!」我々は気合いを入れ返事をし、駆け足で移動した。

グランドに集合し、おっさんとともに隊列を組み駆け足で基地の外周を 一周した。終了後、教室への集合を指示された。

教室で待っていると、先程のおっさんが入ってきた。学生長が気合いを 入れて「気を付け!」と号令をかける。我々は「シャキッ」と背筋を伸ばし姿勢を正す。「87−C総員8名!集合終わり!」と報告する。おっさんは自己紹介を始め、そこで初めてフライトコマンダー(主任教官)(以後、コマン ダーという。)であることを知るのであった。

次にアシスタントコマンダー(副主任教官)(以後、アシコマという。)から この課程についての概要と諸注意事項の説明があった。ここで、更に道程の厳しさを感じる一方、飛行訓練開始の実感とのやる気が湧いてきたのであった。

解散後、居室に戻り身辺整理を指示され、本日の移動に伴う任務は終了した。

居室は4人部屋で机が四隅に、その脇にそれぞれのベットとスチールロ ッカーが配置されていた。今までの生活からしたら天国の様な環境である。山口県で発送した荷物(段ボール2箱程度)は既に届いていた。荷物をロッカーに入れ移動は完了。夕食、入浴を済ませ居室で「ホット」息 をつく。明日の入校式に向け、制服にアイロンをかけ、革靴をピカピカに磨いた。

 やっと一日が終わった〜!長い一日であった。やっと寝れる。おやすみなさいZZZZ。

明日はいよいよ入校式だ!

「第1初級課程(初飛行その1)」



飛行訓練に向け数々の準備をする中で、フライトスーツ等のパイロットだけに貸与された物品が配られた。憧れのオレンジ色のフライトスーツ(夏、冬各2 着)、フライトジャンバー、フライトブーツ、靴下、耐寒服、、フライト グローブ、航空ヘルメット・・・・。
早く着たくて着たくて気持ちだけが焦る。フライトスーツには、階級章及びネームタグを縫い付ける。

一人前のパイロットになれば、ローマ字の名前入りで鷲のマーク(航空徽章)が入ったウイングマークと呼ばれる刺繍されたワッペンをマジックテープで留める。一目でパイロットと判るのだ。
通常我々はフライトスーツ姿で基地の中を移動する。建物間の移動の際は、常に隊列を組み整斉としていなければならない。この基地は我々操縦学生を育成するためにある。

基地内の隊員は誰もが操縦学生を見ている。何処かで目に付く様な行為等があれば直ぐ に主任教官に連絡が入り厳しい指導を受ける。「87-Cの学生は最近元気が無い。」「敬礼動作が悪い。」「基地内をダラダラ歩いている。」と、いった声が主任教官の耳に入るのだ。
基地内の隊員の期待がかかっている。全隊員に見守られながら、また、全隊員で操縦者を育成するのだといった暖かい基地であったことを今でも覚えている。

いよいよ初飛行の日がやってきた。最初の訓練は慣熟訓練で評価の対象外となる。とはいえ、初めての試みでありどのような感じなのか想像ができない。これだけ準備すれば大丈夫だと思い訓練に臨んだ。
午前7時20分、朝礼の前にランプ地区で自衛隊体操(航空自衛隊独自の体操)から一日が始まる。その後、飛行隊全員の朝礼だ。飛行隊長に元気よく敬礼をし挨拶を行う。
次にウエザー・ブリーフィング(気象状況報告)を受ける。当日朝3時の地上天気図の解説から始まり850hPa上層天気図、ひまわりのレーダーエコー合成図、飛行場現況及び予報図、地上予報天気図と約15分程度の説明を受 け、疑問点等をパイロットが質問又は、解説に対すḂ意見を交わ す。
訓練担当者から飛行情報等、訓練に関係する情報のブリーフィン グを受ける。続いて、安全幹部から本日の安全に関する諸注意事項を、飛行班長からは本日の着意事項をそれぞれ指導を受ける。 最後に飛行隊長が一言、物を申される。
以上の流れで一日が始まる。 フライトルームに戻ると、アシコマ(副主任教官)、コマンダー(主任 教官)からそれぞれ本日の訓練の要領等について話がある。
次に各個別のプリ・ブリーフィング(飛行前の打合せ)が始まる。これからが学生と教官と一対一での教育訓練の始まりだ。

Share this post

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です