「第1初級操縦課程(その5)」
タクシーを開始した。
整備員の誘導に従いタクシー・アウトする。
周囲にいる整備員は皆一斉にパイロットに対し敬礼をする。
我々パイロットも敬礼(答礼)をする。しかし、我々訓練生には深々と答礼している余裕は無かった。
取り敢えず、はじめのうちは「手順」の一貫 としての敬礼であった。
タクシー・アウト後は数メートル程直進し、90°変針するが、これがまた飛行機が思いどおりに動いてくれないのだ。
ステアリングはラダー・ペダルと兼用になっており、前輪の方向は容易に偏向する。しかし、ラダー・ペダルは左右それぞれの主輪のブレー キ・ペダルも兼用となっている。
例えば、右にラダー・ペダルを踏み込む と左のラダー・ペダルは手前に移動するため、意識をして左足のつま先を上げていないと左足で左主輪のブレーキをかけてしまい、飛行機は 右に偏向していかないのだ。
やっとの思いでメイン・タクシー・ウエイ(主誘導路)まで出たもの、パワ ーが入っているにもかかわḀず、ブレーキをかけながら地上滑走速度を 制御していると、常に指導されながら地上滑走をしていた。
そうこうしているうちに何とかランナップ・エリア(滑走路入り口手前の待機場所)まで移動することができた。
離陸前にエンジン試運転等を行い安全に万全を期す。これは、航空法に基づく「機長の出発前の確認事項」の最終段階の項目である。
このチェックでエンジンの異常を見極めなければならない。
各チェックにおいて計器等の正常値の範囲が技術指令書に示されている。
一つ一つエンジン計器の指示値を発唱し、確認をする。異常があれば アボート(任務中止)を決心しなければならない。
知識不足等でアボートし帰ってこれば、自分が恥ずかしい思いをするばかりではなく、整備員に多大な迷惑をかけ信頼を失うこととなる。
こういった思いはパイロットである限り常につきまとった。
退官しプライベートで フライトする時も同様な思いである。 しかし、私は五感を大切に生きてきた。何か不安がある時はやめる。
技術指令書に示された範囲内であるが、何時もと違うと不安を感じた場合は、訓練であれば任務を中止すべきであると私は常々部下にそう指導をしてきた。
何か不安があるような場合は往往にして、そのことが気になり安心して航空機を運航できなくなる。
また、飛行したとしても効果的な訓練にならない。
そればかりではなく航空事故の可能性が高くなるであろう。
航空機を運航するのは人である。運航者自らの精神状態のチェックも必要なのだ。
こうして、エンジン・ランナップを行い、管制塔に出発準備完了の旨レポ ートする。
P:「Shizuhama-tower amagi-17 ready.」
C:「Amagi-17 shizuhama-tower wind 120° at 7kt cleard for take off.」
離陸許可がきた。
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